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□悲願花
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兄上、兄上。
呼んでも、呼んでも貴方は遠く、私の声など届いていない。
『トシ』
『土方さん』
彼らのあの人を呼ぶ声は彼の耳にも届いているのですね。
一番近いと思っていたこの位置が今はこの世の誰よりも遠い。
固有名詞で言える彼らを羨ましいとどれだけ思っただろう。
一生彼を代名詞で呼び続ける自分をこれほど愚かだと思ったことはあるのだろうか。
この血と言う鎖で繋がった私を何故皆は羨ましく思うのだろう。
思いを伝えられず枯れていく私を皆はどう思うだろう。
実を熟さない種ならばいっそ朽ちて腐った方がどれだけ良いだろうか。
悲願花
(伝えたいのに伝わらない)
(許されない恋などしなければ良かった)
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